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イヤフォンスプリッターを使った鑑賞の授業


従来型の鑑賞の授業といえば、

①学習者が、一斉に同じ音楽を聴く(複数音源を同時に聴こうとすれば音が混じる)

②授業者が、再生スイッチを押す

③鑑賞中に、学習者が話をしていると授業者はいい顔をしない

上記は、今日でもよく見られる光景と思われる。これらには、

①学習環境や機器台数の関係

②日本の学校教育が培ってきた普遍的授業スタイル

③クラシック演奏中に話すのはマナー違反

という理由が根強いように思う。

なお、本記事は、この従来型の鑑賞指導を否定するわけではなく、上記以外のいろいろな指導法を模索しているということである。

さて、近年、イヤフォンスプリッターの活用をした鑑賞指導を行っている先生を回りで何人かお見掛けした。そこで、その是非について、自分でもやってみようと思い、先日挑戦したということである。

イヤフォンスプリッターとは、同じ音楽を複数人で共有できるようになるアイテムである。

見たことがあるタイプでは、最大5人まで同時に聴ける。元をCDラジカセに接続してもよいし、タブレットや音楽プレイヤーに接続してもよい。

但し、1人聴く人が増えるたびに出力が少しずつ下がるように感じ、5人分の線をつなぐと音量30%くらいは落ちているかなという印象。価格は、amazonで最安\440である。

また、ヘッドフォンは、本当ならばいい音のするヘッドフォンで・・・と言いたいが、予算の都合上、100円均一のものを集めた。

さて、このイヤフォンスプリッターを使うと、従来型の鑑賞の授業とは異なることが可能となる。

・学習者が、別々のものを聴ける(教室内で音が混じらない。)

・学習が再生スイッチを押す。

・鑑賞中、音楽を聴きながら、音楽についてあれこれ話をしながら聴くことにつながる。

3つ目について、生演奏を鑑賞するならば、もちろん話し声は、ご法度である。しかし、機械音の鑑賞なら、絶対話していけないということでもなく、むしろ「今聴いている部分の音が」と聴いて思ったことをピンポイントに会話することは、有意義な点も多い。

長所としては、

・学習者が再生スイッチを押すので主体的な活動になる。

・課題設定により、何度も聴く機会が増える。

・小グループで聴くことで、自然と対話的な場面が増える。

・ヘッドフォンは、音楽への没入感があり、集中して音楽が聴ける。

・現代の子ども達にとってイヤフォン、ヘッドフォンは、日常的である。

・異なる音源を流していても、教室に音楽が混ざることがない。

短所としては、

・事前準備、用意が大変で、費用がかかる。(100円均一で同一機種・色を集める)

・班活動の際、教師は、学習者が何を聴いているのか、把握できない場合がある。

・家では体験できないような大音量、いい音で聴く音楽室での鑑賞体験を奪う。

・学習者が端末を使うので、操作ミスや機器トラブルとなる場合がある。

などがあげられる。

今回は、以下の2つの授業を試してみた。

なお、イヤフォンスプリッターの他、音源を入れたタブレットを用意し、学習者が、再生スイッチを押せる環境にした。

1、音源を比較する聴き方

同一楽曲の異なる編曲や演奏を比較聴取し、自分が好きな音源をグループで討論し合う。

〔活動の手順〕

・比較元、基準となる原曲を知る。

・それぞれの楽曲を聴いて一人一人お気に入り度として、1~5までで評価する。

・評価を比較する。1や2をつけた人と5や4をつけた人がいたら、意見が真逆となるため、面白い。また全員が5や4、または1や2をつけた理由がなぜかも考えるのもよい。

〔活動の注意点〕

・原曲と比べて・・・など原曲(比較元)をよく知っていないといけない。

・直観や感性も使うと思うが、音楽的な見方、考え方を重視する。

・この活動には、「正解」がない。与える音源によって、みんな同じ意見になってしまうとまったく対話が白熱しない事態となるため、音源選びが重要である。

〔活動に用いた楽曲〕

・今回使った音源は『木星』の中間部分の異編曲、異演奏。

ア ピアノソロ(加羽沢美濃)

イ ギターソロ(you tubeから)

ウ 吹奏楽(編曲M8公式サイトから)

エ 和楽器(和楽器バンド)

オ 電子楽器+ドラム+バイオリンソロ(葉加瀬太郎)

この5つを比較した。平原綾香のジュピターも、と思ったが、インストゥルメントのみのほうが比較しやすい点、歌詞に興味が言ってしまう点、歌い方が独特(ブレスノイズが多い)点などを考えて、平原綾香のジュピターは除外した。

〔活動の時間配分〕

導入【全体】前時の復習。リコーダーで中間部の旋律を吹く。〔5分〕

本活動【全体】グループで比較聴取を進める。〔25分〕

週末【全体】〔10分〕

*準備片付けに要した時間〔5分〕

〔活動の結果〕

・エの和楽器は、多くの児童が気に入っていた。

・アやイは意外と評価が分かれ、バイオリン等の擦弦楽器(持続音)とギターやピアノ等の發弦楽器(減衰音)の音色の違いの話がでて面白かった。

・オがいいかなと予測していたが、オに肯定派の児童は少なかった。

・班活動の最後には、学級全員で意見が分散した音源について、協議をした。

2、分割した音源を並び替える聴き方

〔活動前の準備〕

・楽曲をあらかじめ、分割した音源を用意し、区切った音源にA~Fまで音源名をつけておく。

・A,B,C,D,E,F・・・など並び替えできるマグネットカード

・windowsのプレイリストやiPadのプレイリスト機能、アプリ、ロイロノートなどあれば、並び替えた音源をつなげて再生できるが、CDプレイヤーでも、一応できなくはない。

〔活動の手順〕

・A~Fなどそれぞれの部分を聴き、特徴を捉える。

・グループで話し合いながらA~Fを原曲と思う順番に並び替えを行う。

・各グループで並び替えをした結果を比較し合う。

​​

〔活動の注意点〕

・それぞれA~Fを聴く際には、強弱や活躍している楽器、音楽的特徴などきちんと提示して聴かせる必要がある。

・この活動には、「正解」がある。学習者は、「正解」であることを求めがちなため、活動意欲としては高いが、「正解」に固着しがちとなり、「不正解」だと、劣等感を感じさせやすい。

めあてをしっかり示しておくことが鍵となる。

〔活動の時間配分〕

導入【全体】前時の復習〔5分〕

本活動【全体】グループで比較聴取を進める。〔25分〕

週末【全体】〔10分〕

*準備片付けに要した時間〔5分〕

〔活動の結果〕

・正解にたどりつくグループは、半分くらいで、時間切れ、分からないグループが半分くらいだった。また、クラスによっても、結果比率は大きく違った。

・並び方がうまくいかないグループは、消去法、、、という感じで、並べ方に意図が薄いように感じた。

・並び替えがうまくいったグループは、直観や聴いたことがある(記憶)便りの班もあり、深い学びにつなげることが難しかった。

〔備考〕

参観者の方から、いくつか課題や視点、可能性が示された。

・活動に適した楽曲は何か。

私は、今まで、「木星」「ます(変奏曲)」で、同様の取組を聴いていたため、今回、「アイネク」で実施してみた。「アイネク」は、モーツァルト独特のサイコロミュージック。どんどんメロディーが移り変わってゆく面白さがあり、つながりが読みづらい?

・音源の切り方は適切か。

1チャプターが長すぎると、学習者は、はじめと終わりしか聴かないで、つなぎだけ聴くようになってしまう。そのようなことを詩っていたので、アイネクでは、1つのチャプター平均20秒程度とした。一番短いので5秒。アイネク音源の分割の仕方は、以下。

開始小節・終了小節・小節間・チャプタ名

1 4 4 はじめ

5 10 6 E

11 17 7 B

18 27 10 C

28 35 7 A

36 50 16 G

51 53 3 D

54 55 2 F

・何をヒントにするか。

楽譜と紹介文の意見があった。

楽譜では、分割線を示して渡す、AとかEとか書き込んだ楽譜も切り取って渡す。紹介文では、並び替えに必要なヒントを提示する。但し、例えば去年の6年生が書いたものだけど、、、など児童に身近になるようにする、「ヒントカード」として教師が書いたものを提示する、、、どちらががよい。

例えば、アイネクならば、以下のようになるだろうか。

「はじめは、全楽器で強い音で演奏する。みんなで同じ旋律を演奏する。

次に、各楽器が役割に分かれる。高いバイオリンの音は、主旋律、中間の音は伴奏、低音のチェロやコントラバスの刻みもかっこいい・・・。」など、紹介文の書きっぷりは一考。

・プラスアルファの研究として

児童が並び替えをした順番、再生した回数を把握できるとよいという意見があった。これは、教師としてできることではないが、並び替えの回数や順序の検討、再生回数など、児童がたどった思考を記憶できるアプリが開発されたら面白いのではないか、ということだった。

・最後に

1の分割鑑賞法は、恐らく従来型でもできる活動である。音楽のような「答えのでないもの」を討論させることこそ、思考的で深い学びにつながりやすい。また、他の人の意見を尊重する態度も育てることができるだろう。一方2の分割した音源を並び替える聴き方では、まだまだ研究段階なものの、多くの可能性を秘めていると感じた。


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